2025年度後期NHK連続テレビ小説『ばけばけ』の
ヒロイン「松野トキ」のモデル小泉セツさんの夫は、日本の怪談話などを著した小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)さん。
日本で妻・小泉セツさんと出会う前の「誕生から17歳までのラフカディオ・ハーン」とその家族関係と悲劇についてご紹介いたします。
小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)家族
両親が出会い、ラフカディオ・ハーンと弟が誕生します。
この0歳〜4歳までの家族との関係は、ラフカディオ・ハーンの人生に大きな影響をもたらします。
両親の出会い
1850年6月
小泉八雲(パトリック・ラフカディオ・ハーン)は、
アイルランド人(イギリス国籍)の父とギリシャ人の母の間に生まれます。
父・チャールズ・ブッシュ・ハーンは、イギリス陸軍の軍医少佐をしていた時に、赴任先のイオニア諸島キシラ島の名士の娘、ギリシャ人のローザ・アントニウ・カシマチと出会い、恋に落ちたのです。
誕生
当時、イオニア諸島の人たちは、イギリスの半植民地状態から独立したいと考えていました。
そのため地元の名士であるローザの家族は、イギリス軍所属のチャールズとの結婚には反対でした。
2人は駆け落ち同然で次の赴任地であるレフカダ島へ移住し、ラフカディオが誕生。
ラフカディオ・ハーンのミドルネーム「ラフカディオ」は出生地「レフカダ」に由来しています。
(ファーストネームはパトリック。父の地元の聖パトリック大聖堂の聖人の名前と同じです)
ギリシャからアイルランドへ
帝国主義で領土を広げていったその頃、
軍医補のチャールズも世界各地に赴任し移動を続けていたため、不在がちでした。
ラフカディオには1つ上の兄・ロバートがいましたが、ラフカディオの誕生からわずか1月後、亡くなってしまいます。
ラフカディオが2歳になると、父・チャールズは妻子を自身の故郷アイルランドのダブリンへと呼び寄せます。
母の気鬱
ですが、温暖な地中海育ちの母・ローザは北国のアイルランドに馴染めません。
また、ギリシャ聖教の信者である母は、プロテスタントのエリート一家のチャールズの家族と壁ができてしまいます。
言語、習慣、文化、宗教の違い…母ローザはふさぎがちになり、精神を病んでしまいます。
父の恋人
1853年、ラフカディオが3歳の頃
日本で黒船が来航した頃
チャールズは黄熱病に罹りアイルランドのダブリンに帰ってきました。
ですが、チャールズの愛は冷め、未亡人となり戻っていた初恋の相手に心を奪われていました。
父・チャールズは元恋人との逢瀬に幼いラフカディオを連れて行ったこともあるそうです。
母との別離
4歳下の弟・ジェームズを妊娠中だったローザは、チャールズがクリミア戦争に出征すると、出産のためギリシャに帰国。
ローザとラフカディオを金銭的に援助したのは、敬虔なカトリック信者である大叔母のサラ・ホームズ・ブレナン夫人でした。
両親の離婚
ローザがラフカディオの弟を故郷へ出産すると、チャールズは突然結婚の無効を裁判所に申し立てました。
その後、両親は離婚。
チャールズは初恋の女性と再婚して、インドへと赴任していきました。
弟・ジェームズは出産後アイルランドに返され、ラフカディオとともに、もう二度と母ローザには会えませんでした。
(ローザは息子たちに会うためアイルランドに来たことがあったそうですが、会わせてもらえなかったとのこと)
そして、父・チャールズとも生涯会うことはありませんでした。
小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)大叔母サラ・ブレナン
カトリック信者の大叔母に跡継ぎとして養育されたラフカディオ・ハーン。
不思議な現象を経験し、怪談に興味を持ち始めます。
大叔母サラ・ブレナン
最愛の母との別れ。
母と自分を捨てた父との確執。
孤独なラフカディオ少年を養育したのはやはりブレナン夫人でした。
彼女はラフカディオを自分の相続人にして、遺産を継がせようと考えていました。
怪談との出会い
その頃、ラフカディオの人生に影響を与えた人物がもう一人いました。
ラフカディオの世話していた乳母のキャサリン・コステロです。
彼女は、アイルランドに伝わるケルトの伝承文芸を幼いラフカディオに語って聞かせました。
後年、ラフカディオは、ノーベル文学賞詩人のWBイエイツに宛てた手紙の中で
「私は妖精譚や怪談を教えてくれた乳母がいた。
だから私はアイルランドのものを愛すべきで、また実際に愛しているのだ」
と書いています。
キリスト教が広まる以前の多神教的な妖精譚への感受性を養ったラフカディオ。
ラフカディオ本人も幼少期から不思議なことを経験することがありました。
『私の守護天使』というエッセイに書かれている1つのエピソードがあります。
熱心な若い修道女・ジェーンがハーン家に滞在していた時のことです。
するとある日、家でジェーンを呼び止めると、振り向いた彼女の顔がなかったのです。
この経験が、傑作となった『怪談』収録の「むじな」の原点になっていると思われます。
小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)興味と信仰
全寮制の神学校に入学したラフカディオ・ハーン。
宗教観や反骨精神が形成されるとともに、文才が芽生えます。
特技は泳ぎ
両親との別れがラフカディオの人生に大きな影を落とすものの、ブレナン夫人のおかげで経済的には満ち足りた生活を送っていました。
夏にはアイルランド南部の別荘で過ごし、海で泳ぐことが何よりも好きでした。
多神教への憧れ
敬虔なカトリック信者のブレナン夫人は、ラフカディオを厳しく育てます。
時に灯りのない部屋で1人寝かされることもあり、この時もラフカディオは幽霊やお化けを見たと話します。
この教育が仇となり、ラフカディオは思想は身つけながらも、キリスト教嫌いになっていきました。
また、この頃はギリシャの神話に関する本と出会い、厳格な一神教であるキリスト教ではなく、母の故郷に伝わる多神教の世界に憧れを抱き始めます。
全寮制の神学校
13歳の頃、ブレナン夫人はラフカディオをイギリスの全寮制神学校へ入学させました。
宗教教育に反発を覚えたラフカディオでしたが、学校の図書館で様々な本を読むことを楽しみ、作文が得意になっていきます。
小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)悲劇
ラフカディオ・ハーン16歳〜17歳の間に悲劇が重なり、人生の転機が訪れます。
失明
ラフカディオに悲劇が襲います。
16歳のころ
学校の回転ブランコで遊んでいる際に友人の持つロープの結び目が当たり、左目を失明してしまったのです。
左目の視力を失ってからのラフカディオは、残った右目も失明してしまうのではないかという不安に駆られます。
活発でやんちゃな気質だったラフカディオですが、事故の後、すっかり内向的になっていきました。
父の死
失明したのと同じ年、父・チャールズがインドから帰国する船内でマラリアのため亡くなったという報せが届きます。
母を捨てた父に良い印象を持っていなかったラフカディオは、チャールズがインドから送った葉書に、返事を書くことはありませんでした。
ブレナン夫人、破産、退学
ブレナン夫人は、遠縁にあたるヘンリー・モリヌーという青年実業家の事業に投資をしていました。
ですが、モリヌーの投機事業は失敗。
それに伴いブレナン夫人も破産してしまい、そのためラフカディオは神学校の退学を余儀なくされました。
ラフカディオ17歳のことでした。
つづき
小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)②
困窮から記者へ(17歳〜37歳)