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朝ドラ『虎に翼』|「少年法」改正の歴史と少年保護

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2021年(令和3年)6月
法務省のホームページに「少年法が変わります!」というお知らせが掲載されました。

○ 選挙権年齢や民法の成年年齢が20歳から18歳に引き下げられ,18・19歳の者は,社会において,責任ある主体として積極的な役割を果たすことが期待される立場になりました。
今回の少年法改正は,18・19歳の者が罪を犯した場合には,その立場に応じた取扱いとするため,「特定少年」として,17歳以下の少年とは異なる特例を定めています。

引用:法務省公式サイト

 少年法(しょうねんほう)
刑事訴訟法に対する特別法で、少年保護手続に関する法律・14歳以上20歳未満の少年が犯罪を犯した場合、または14歳未満で犯罪行為を行ったが、法律上犯罪行為とみなされない場合、これらの少年に関する事件は家庭裁判所で取り扱われます。
・少年の被疑者や被告は、他の被疑者や被告と接触しないように分離されます。
・7歳以下の少年に科せられる懲役刑は最大15年、18歳以上の被告に科せられる懲役刑は最大30年と定められています。
・18歳以上の被告については、メディアが起訴後に名前や写真を公表することが認められていますが、18歳未満の被告については引き続き公表が禁じられています。

選挙権などの権利が18歳以上に拡充した一方で、18歳、19歳は「特定少年」として実名報道が可能となった少年法。

このような改定にはどのような歴史や時代背景があるのかを紹介し、少年犯罪について考える機会になればと思います。

朝ドラ『虎に翼』についても、深く理解しお楽しみいただく一助になりましたら幸いです。

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少年法の歴史

1922年(大正11年)
「旧少年法」制定。
少年の定義は18歳未満、死刑適用限界年齢は16歳以上でした。
また、戦時中は戦時刑事特別法があり、少年法上の少年であっても裁判上は少年扱いせずに裁くことも可能でした。

1947年(昭和23年)
「現行少年法」制定。
米国イリノイ州シカゴの少年犯罪法を模範として、GHQの指導のもと制定されました。
当時は第二次大戦後の混乱期であり、食料などの窃盗や強盗などをする孤児などの少年が激増。
成人が犯罪に巻き込まれたり、性犯罪も激増していました。
この少年法は、非行少年を保護し、再教育するために制定されており、少年事件の解明や、犯人に刑罰を加えることを目的としたものではありません。

朝ドラ『虎に翼』で寅子が道男を保護したのも、この考え方に則していますね!

1970年(昭和45年)
法務省は法制審議会に対し、18歳と19歳を「青年」と規定して犯罪を犯した際の処罰を強化することを盛り込んだ「少年法改正要綱」を諮問したものの、法改正には至りませんでした

朝ドラ『虎に翼』ではこのあたりの動きが丁寧に描かれています。

2000年(平成12年)
刑事処分の可能年齢が「16歳以上」から「14歳以上」に引き下げられました。また、16歳以上の少年が故意の犯罪行為で被害者を死亡させたときは、検察官への逆送が原則となりました。

2007年(平成19年)
少年犯罪の凶悪化や低年齢化に対応するため、少年院送致の年齢下限が現行の14歳以上から「おおむね12歳以上」に引き下げられました。

2008年(平成20年)
2004年(平成16年)に成立した犯罪被害者等基本法と整合性をとるため、殺人事件等一定の重大事件において少年の心身に影響がないと判断された場合、被害者が少年審判の傍聴をできる制度が創設された。

2014年(平成26年)
18歳未満の少年に対し、無期懲役に代わって言い渡せる有期懲役の上限が15年から20年に延長され、不定期刑も「5年 – 10年」を「10年 – 15年」に引き上げられた。

2020年(令和2年)7月30日
少年法の適用年齢を引き下げるかどうか議論してきた自民党、公明党のプロジェクトチームは、適用年齢を引き下げず、改正民法施行に伴い成人となる18、19歳も少年法の対象とすることで正式合意した。

2021年(令和3年)
民法の成人年齢が18歳に引き下げられることに合わせ、18歳と19歳を「特定少年」と位置づけ、家庭裁判所から検察官に逆送致する事件の対象を拡大することや、公判廷において起訴された場合には実名報道を可能とすることを盛り込んだ改正少年法が可決、成立。
2022年(令和4年)4月1日:施行されます

1970年に「青年」と指定されかけた18歳、19歳が、50年経ち「特定少年」とい言い換えられました。

 

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少年法改正の背景と統計

少年法が改正されたことは、凶悪な少年事件に対してこれまでの制度では十分ではないとの世論が高まったことも背景の一つにあります。

「現代の少年はキレやすく、ちょっとしたことに我慢ができず、重大事件を起こす」などと、少年犯罪の増加・凶悪化が報道され、少年法改正につながった一面があると言われています。

ただ、統計的には、近年の犯罪件数のピークは1950年代半ばや1980年代半ばと比べてみても非常に少なく、減少の一途にあります。

2021年の少年法改正に関する法務省Q&Aでは、少年犯罪は減少しており、少年による凶悪犯罪も減少していると回答されています。

統計上では少年犯罪が凶悪化しているわけではないようです。

 

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海外での少年法の動向

海外においての少年法の制度は、国によって異なり、保護法的起源のものと刑事法的起源のものとに分類されます。

イギリスやアメリカの少年法は保護法的起源に属し、ドイツやフランスの大陸法系少年法は刑事法的起源に属しています。

少年法の制度の違いについてご紹介します。

<イギリス>
刑事責任年齢の下限は10歳で、10歳以上14歳未満の者を児童、14歳以上18歳未満の者を少年、18歳以上21歳未満の者を青年と称しています。

<ドイツ>
刑事法上、行為時14歳以上18歳未満の者を少年、行為時18歳以上21歳未満の者を青年と定めており、少年と青年については成人と異なる取扱いがされます。

<アメリカ>
先例である1952年のMAYv. ANDERSON判決では、「少年は法が反映された特別な生活空間の中にあり、本質的に成人と異なるため、安易に成人と同様の司法手続きにのせることはできない」という観念が確認されています。
「罪を犯した少年は国あるいは社会の被害者であり、親(国)が守るのは当然」。
ですが、多民族国家、多宗教社会のため上手くいかず、最近は厳罰化の傾向になっています。
ニューヨーク州では刑事責任能力が7歳から、少年と扱われなくなる年齢は16歳と定められますが、厳罰化が必ずしも犯罪率の抑止効果にはなっていないのが現状。
保護処分に比べ、刑罰は少年の健全育成にはならず、アメリカの少年法は失敗してきたとみなされています。

海外では「少年」と「成人」をきっぱり分けるのではなく、「青年」という中間を設定し、グラデーションをつくっており、日本の少年法での「特定少年」もそれに倣った形をとっています。

朝ドラ『虎に翼』で多岐川が最期まで闘っていたのは、厳罰化が必ずしも犯罪率の抑止効果に働かず、逆に少年の健全育成の妨げになるということがわかっていたためだと思われます。

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日本の現状

理想と現実には乖離があります。

社会政策と懲罰意識の齟齬

日本において少年の凶悪犯罪は増えてはおらず、アメリカの例などを見ても刑罰は少年犯罪の抑制にはならないことがわかってきました。

さらに、少年法においては「被害者を生まない社会を作るためにはどうしたらいいか」という社会政策という広い視野で慎重に考える必要があります。

とはいえ、昔に比べセンセーショナルな事件が広まりやすく、また被害者や被害者の遺族の感情も表に出てきやすいため、充分共感できてしまうのも現実です。

この理屈と「懲罰感情」に齟齬が生じ、新たな問題となっているのが、
インターネット上での個人情報漏洩・ネット私刑問題
です。

インターネット上での個人情報漏洩・ネット私刑問題

少年法で定めようが定めなかろうが関係なく、
多くの事例で事件発生から数時間から数日というわずかな時間で、被疑者の実名だけではなく顔写真、住所、電話番号、本籍地、家族構成、両親、兄弟の勤務先や通学先などの個人情報がSNSやネット掲示板、まとめサイトを通じて漏洩してしまうという実情があります。

インターネット上の情報は拡散速度が早く、消えることないデジタルタトゥーとして残り続けます。

このインターネットによる個人情報拡散が抑止力として働いているケースもあるかと思いますが、逆に有名になりたいと犯罪を犯す動機にもなりうるのかもしれません。

いずれにせよ、少年法第61条違反・名誉毀損(刑法第230条違反)・プライバシー ・人格権の侵害などにあたり、
たとえ匿名の発信であっても発信者情報開示請求により身元を特定され、を理由に責任(刑事上や民事上の法的責任)を追及される可能性があります。

 

未成年者は人生経験が浅く知識や常識が不足している状態にあり、粘土を細工する様に人格が変化しやすい「人格の可塑性」を加味したうえで、

少年犯罪を減らすため(被害者を減らすため)に、そして犯罪を犯した少年が更生できる社会をつくるために、法律についても、実際個人としても、どう動けばよいのか、考える機会になればと思います。

お読みいただきありがとうございます。

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